サンプラーを使用したビートメイクにおいて音源素材へのエフェクトのかけ方としては、主に以下の3通りの方法が考えられます。
- 録音ソース側であらかじめエフェクトをかけた状態で録音する
- サンプラー本体内で内蔵エフェクトをかける
- 録音後、DAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかける
どこでエフェクトをかけるかは個人個人の自由ですが、「音源素材に対してどこで何のエフェクトをかけるのか?」によって出来上がるビートの雰囲気なども変わってきますが、一体どのタイミングで音源素材に対してエフェクトをかけるのが良いのでしょうか?
結論:使いたいエフェクトがあるなら、そこでかける
まず個人的な意見を言えば、当たり前の事のように思えますが単純に「自分が使いたいお気に入りのエフェクトがあるセクションでかければ良い」それに尽きるかと思います。
例えば「サンプラーで楽器演奏をセルフサンプリングしよう」と思ってシンセサイザーを使ったとします。たいていの場合、シンセサイザー本体にも何種類ものエフェクトが内蔵されているので、「普段シンセサイザーを使っている時に何種類かぐらいはお気に入りのエフェクトを見つけている」ような事はよくあります。
そして、サンプラー内にも(サンプラーを買った際に付属してきたパスキー等を入力して公式サイトからダウンロードした)専用のDAWソフトウェア内にも「シンセサイザーに内蔵されているあのお気に入りのエフェクト(例えばリバーブ)を超える物が無い。やっぱり、あのお気に入りのリバーブを使いたい」と思うのなら、そのお気に入りのリバーブをかけた状態のシンセサイザーの音をそのままサンプラー(本体もしくは外部メモリ)やDAWソフトウェア上に録音するか、アンプで出した音をマイクで拾ってそれをサンプラー(本体もしくは外部メモリ)やDAWソフトウェア上に録音するなりすれば良い、と言う事です。
当然、「シンセサイザーに内蔵されているリバーブに良いものが無い」ような場合もあります。そのような場合は、「サンプラーに内蔵されているリバーブや(専用)DAWソフトウェア内のプラグインエフェクト(VST)から使いたいものを探して(場合によってはプラグインソフトウェアを新たに購入して)良いものがあればそれを使えう」と、言った具合でビートメイク(楽曲製作)を進めていけば良いのではないかと思います。
当然、「あの音にかけるコンプレッサーは、サンプラー本体内に内蔵されているあのコンプレッサーじゃなければダメだ」とか「ディレイは、あのソフトウェアのあのプラグインをどうしても使いたい」と、言ったようにサンプラーに内蔵されているエフェクトや(専用)DAWソフトウェア内のプラグインエフェクト(VST)の中でも使いたいものが既に決まっている場合は、それらを使えば良いでしょう。
1.録音ソース側であらかじめエフェクトをかけた状態で録音する
「録音ソース側であらかじめエフェクトをかけた状態で録音する」というのは、先程も触れたように例えばシンセサイザーに内蔵されているエフェクトをONにした状態で出した音やエレキギターにコンパクトエフェクターでエフェクトをかけた状態の音をそのままサンプラー(本体もしくは外部メモリ)やDAWソフトウェア上に録音するか、アンプで出した音をマイクで拾ってそれをサンプラー(本体もしくは外部メモリ)やDAWソフトウェア上に録音する、と言う事です。
録音ソース側でエフェクトをかけるメリット
キーボードなどに内蔵されているエフェクト、ギター・ベースなどのコンパクトエフェクター・マルチエフェクターなど、いずれを使用するにしても録音ソース側でエフェクトをかけて音源を録音する場合、以下のようなメリットがあります。
- DAWソフトウェア上でプラグインを起動させなくてよい(CPU負荷を下げれる)
- サンプラー本体内やDAWソフトウェア上でどのプラグインエフェクトを使用するか迷いが減る
DAWソフトウェア上でプラグインを起動させなくてよい(CPU負荷を下げれる)
あらかじめ録音ソース側でエフェクトをかけて、エフェクト処理のほとんどをそれで済ませてしまえば、DAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をそこまで多く起動する必要が無いので、その分CPU負荷を抑える事が出来「DAWソフトウェアで作業中にパソコンがフリーズしたり強制的にシャットダウンしてしまう」と、言ったような作業効率を下げてしまうトラブルを防ぐ事が出来ます。
ただ、録音ソース側であらかじめエフェクトをかけている場合でも、「DAWソフトウェア上のプラグインエフェクト(VST)で微調整をしたくなる」場合ももちろんあります。それでも、部分的なプラグインエフェクト(VST)の立ち上げであれば、「エフェクトをかける必要のある全ての録音素材に対して全てのエフェクトをDAWソフトウェア上でかけていく」場合に比べてCPU負荷はかなり抑えられはずです。
(そのプラグインエフェクト(VST)にもよりますが、特にCPU使用率が高くなりがちな”アンプシミュレーター”、”ディレイ”、”リバーブ”と、言ったプラグインエフェクト(VST)をDAWソフトウェア上で起ち上げなくて済むように工夫するだけでも、作業効率は上がるかと思います。。
サンプラー本体内やDAWソフトウェア上で「どのプラグインエフェクトを使用するか」迷いが減る
あらかじめ録音ソース側でエフェクトをかけた場合、その分サンプラー内やDAWソフトウェア上でかけるエフェクトは減っていくのが普通かと思います。そしてそれは、イコール「サンプラー内やDAWソフトウェア上でどのエフェクトをかけるか選択していく回数が減る」事になるので作業の進みが早くなる可能性があります。
例えば、プラグインエフェクト(VST)と一口に言っても、かなりの種類があり、ある程度経験を積んで「(このソースへの)コンプレッサーはこのプラグインでディレイはこのプラグイン」と、言ったようにあらかじめ「どのソースにどのプラグインエフェクトかけるのか」がある程度決まっているのなら問題は無いかと思いますが、そうでない場合プラグインエフェクト(VST)は、アウトボードよりも気軽に様々なタイプのエフェクト・設定・プリセットを試せてしまう場合が多い為、その分「どのエフェクトを使うか?どう言った設定にするか?」と、言った迷ってしまう時間が長くなってしまう可能性が高くなってくるので注意が必要です。
録音ソース側でエフェクトをかけるデメリット
あらかじめ録音ソース側でエフェクトをかけて録音する場合にはデメリットもあります。
キーボードなどに内蔵されているエフェクト、ギター・ベースなどのコンパクトエフェクター・マルチエフェクターなど、いずれを使用するにしても録音ソース側でエフェクトをかけて音源を録音する場合、以下のようなデメリットが出てきます。
- 質感が合わない事がある
- 後戻りできない(出来ても面倒)
音源の質感が合わない事がある
例えば、
- 録音する楽器→シンセサイザーのみ
- トラック数→3トラック
- エフェクト→全てキーボード内蔵エフェクト
と、言ったように「同じソースに同じエフェクトを使用」した場合、音源の質感は揃いやすいですが、
- 録音する楽器→シンセサイザー、ギター、ベース
- トラック数→各1トラック(計3トラック)
- エフェクト→キーボードはキーボード内蔵エフェクト、ギターはAと言うメーカーのコンパクトエフェクター、ベースはBと言うメーカーのマルチエフェクター
と、言ったように「各録音ソースに異なるエフェクトを使用した」場合、音源の質感がバラバラになってしまうケースも多くなってきます。
後戻りできない(出来ても面倒)
録音ソース側であらかじめエフェクトをかけたシンセサイザー等の音をサンプラー(本体内蔵メモリや外部メモリ)やDAWソフトウェア上に1度録音してしまえば、エフェクトのかかっていない「素の状態」に戻すことは出来ません。もし、自分で「(技術面で)今のは完璧だった」と思えるテイクが録れたとしても音色が気に入らなかった場合、録音ソース側のエフェクトの設定をやり直して再び録り直さなければならないので、完璧なテイクが台無しになってしまいます。
2.サンプラー本体内で内蔵エフェクトをかける
AKAI MPCシリーズやNATIVE INSTRUMENTSのMASCHINEシリーズ等のサンプラーでも(モデルごとに内蔵されているエフェクトの種類も変わってきますが)本体に内蔵されたエフェクトをかける事が可能です。
サンプラー本体内で内蔵エフェクトをかけるメリット
Vintage Effectsを使用出来る
AKAI MPC LIVEシリーズ、AKAI MPC ONE (+)、AKAI MPC X (SE)と言ったモデルには“Vintage Effects”と言う、”SP1200″、”AKAI MPC 60″、”AKAI MPC 3000″の質感を再現できるようなエフェクトが搭載されているので、それら「”往年の名機”と呼ばれるモデルの質感がビート(楽曲)に欲しい」と、言う場合は大きなメリットとなります。
サンプラー本体内で内蔵エフェクトをかけるデメリット
サンプラー本体に負荷をかけてしまう
サンプラー内に内蔵のエフェクトを起ち上げると、DAWソフトウェア上ににプラグインエフェクト(VST)を起ち上げた場合と同様にサンプラー本体に少なからず負荷がかり、サンプラーの動作に影響してきます。
新品で購入できるようなモデルなら問題は無いかと思いますが、中古で買った製品の場合「重めのエフェクトを起ち上げると、毎回サンプラーの電源が落ちてしまう」と、言ったような事態が起こる可能性も充分あります。
3.録音後、DAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかける
録音ソース側などでエフェクトを一切かけず楽器から出るダイレクト音をDAWソフトウェア上に取り込んでからプラグインエフェクト(VST)をかける事も可能です。
DAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかけるメリット
楽器の音をDAWソフトウェア上に録音した後にプラグインエフェクト(VST)をかけるメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 多くの種類のエフェクト・設定・プリセット(様々なパターン)を試せる
- やり直しがきく
- 音源の質感を揃えやすい
多くの種類のエフェクト・設定・プリセット(様々なパターン)を試せる
先程も触れたように、シンセサイザー等の楽器の音を録音した後にDAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかける場合、サンプラー側や楽器に内蔵されたエフェクトを使用する場合に比べてより多くの種類のエフェクト・設定・プリセットを試せる場合が多いです。
確かに、内蔵エフェクトだけでも充分な量のものが収録された製品もあるかもしれません。ただ、内蔵エフェクトの音が自分の好きな音で無い場合も少なくありません。プラグインエフェクト(VST)の場合、個別に自分の好きなプラグインエフェクトを後から買い足す事が出来るので、より自分の好みの音を追求する事が可能となります。
また、アウトボード(実機)では高くて手を出せないようなエフェクトでも、実機をモデリングしたプラグインエフェクト(VST)ならば価格的にも入手しやすくなり選択肢として現実的になります。
やり直しがきく
シンセサイザー等の楽器の音を録音した後にDAW上ソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかける場合、元々の録音素材(ダイレクト音)さえ残っていればプラグインエフェクト(VST)の差し替えはどれだけでも行う事が出来ます。
例えば、エレキギターをダイレクトでDAW側に録音しDAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかけて行く場合、大まかな手順は以下のようになります。
- ライン入力でエレキギターのダイレクト音をDAWそソフトウェア上に録音
- 録音素材に対しDAWソフトウェア上でアンプシミュレーターをかける
- 他プラグインエフェクト(例えばコンプレッサーやディレイ等)をかける
例えば、「3.他プラグインエフェクト」の設定を調整している最中に「アンプシミュレーターをやはり他のプラグインに変えたい」となった場合でも、DAWソフトウェアのトラック上でアンプシミュレーターの差し替え・設定の変更・プリセットの変更はいつでも可能です。
(ただ、アンプシミュレーターに通した音を新規ファイルとして1度書き出してダイレクト音(元々の録音素材)のファイルをDAWソフトウェア上から削除してしまった場合、ダイレクト音のファイルを再びDAWソフト上に読み込まなければならなくなります。
(元々の録音素材の)ファイルをDAWソフトウェア上から削除してしまっただけならまだしも、パソコン上からデータ自体を削除してしまった場合は、またテイクを録音する所からやり直さなければなりません。)
音源の質感を揃えやすい
シンセサイザー等の楽器の音を録音した後にDAW上ソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかける場合、全ての素材に対して共通のプラグインエフェクトをかける事が出来るので、ソースごとに別々のエフェクトをかけた場合に比べて全体的な質感は揃えやすくなります。
特にディレイやリバーブはトラックごと個別ではなく、AUXチャンネルをいくつか作成しセンドで送る事で、各トラックに共通のディレイ、リバーブをかける事が出来ます(トラックごと個別にディレイ、リバーブをかけるよりもAUXチャンネルに送った方が「プラグインエフェクトを立ち上げる数が少なく済む」と、言ったメリットもあります)。
DAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかけるデメリット
シンセサイザー等の楽器の音を録音した後にDAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかけるデメリットとしては、「CPU負荷が高くなる」と言うものがあります。
CPU負荷が高くなる
シンセサイザー等の楽器の音を録音した後にDAWソフトウェア上でプラグインエフェクト(VST)をかける場合、どうしてもCPU負荷は高くなります。(プラグインエフェクトによっても変わってくるので全てが全てでは無いですが)特に以下のようなプラグインエフェクト(VST)はCPU負荷が高くなります。
- アンプシミュレーター
- ディレイ
- リバーブ
そして、当然ですがDAWソフトウェア上に上に起ち上げるプラグインエフェクト(VST)の数が多くなればなるほどCPU負荷は上昇し、一定の数値以上になるとパソコンがフリーズしたりシャットダウンしてしまいます。ある程度、性能(スペック)が良いパソコンでないと作業においてストレスを感じる事が多くなります。